マイコンDIY: 8月 2017

「共謀罪」法:TOC条約の目的である「組織的経済犯罪」は政・官・財に限って除外


 刑法学の第一人者の高山佳奈子・京大大学院教授は
「共謀罪の対象犯罪が676から277に絞り込まれる中で、政治家や官僚や企業などの汚職の共謀は処罰から外された」
 と指摘した。



・公職選挙法違反
・政治資金規正法違反の罪
・特別公務員職権乱用罪(警察犯罪)
・暴行陵虐罪(警察犯罪)
・賄賂罪
・商業賄賂罪

 これらの、公務員の横領以外の「公権力による犯罪」、TOC条約の主要な目的である「組織的経済犯罪」は、法案から除外されたのだ。
 与党政府は「想定し難いから除外した」と国会で答弁している。しかし、マフィアなどが政・官・財などとつるんで利益を得るというのも世界の常識である。
 また与党政府が言う「テロ」でいえば、オウム真理教は国政選挙に立候補したし、信者には現職警察官も複数いた。

 一方で、コミケや町の音楽教室などがひっかかりそうな著作権法、市民デモなどで現在でも逮捕理由になっている威力業務妨害罪、節税の相談が罪に問われそうな法人税法、所得税法、消費税法、さらに企業などの不都合な真実を暴く時に、事前の記事の編集段階(!)での摘発に利用できるような信用毀損罪、また、冤罪を晴らすための証言などについての話し合いで、弁護士や第三者の証言者が証言をする前に偽証の共謀で摘発される危険がある偽証罪などはそのまま。
 森林法の、保安林でキノコを採ることもテロの資金源になる行為にあたる、は別に大臣の冗談ではない。また、弁当にビールなら花見、地図に双眼鏡ならテロの下見、も条文から見れば然もありなん。条文の「実行準備行為」には限定はなく、日常の行為ほぼすべてがそこに含まれてしまうことを言っているにすぎないもので、「実行準備行為」を付け加えた、とは言っても条文上、意味がないことを法務大臣自らが証明した形だ。事実、「圧倒的にリアリティが欠けている」と山尾しおり議員が批判した、上の金田法相の答弁は、二つとも政府は撤回もしていなければ、訂正すらしていない。金田法相にリアリティが欠けているというより、法案の条文自体がそうなっているのである。
「共謀罪」法は、「組織的犯罪集団」にも条文には限定がない。「計画段階」でのコミュニケーションの内容の判断も含め、捜査機関のサジ加減一つで該当するかどうかが決められる。しかも、対象犯罪を行う前にだ。
 中部弁護士会連合会は昨年10月に次のように書いている。
「我が国の刑事法体系は、国民の内心の自由を保障し、国家権力の濫用を防ぐため、犯罪の意思を有するだけでは処罰せず、刑罰によって保護すべき「法益」と、法益侵害する恐れのある「定型的な行為」をあらかじめ法律に規定し、犯罪となるか否かの基準を明確にする考え方、すなわち罪刑法定主義を基本原則としている。この基本原則によって政府の恣意的な権力活動を抑止し、国民の基本的人権を保障してきたのである。
 ところが共謀罪は、法益侵害の発生とは関係なく、内心で犯罪の意思を有していることと紙一重の「共謀」という「意思の合致」のみで処罰することから、国民は共謀罪での処罰を避けるため、自由な言論・行動など思想表現活動を自粛せざるをえなくなり、これらの自由に多大な萎縮的効果を与えることとなる。
 加えて共謀罪法案が成立した後には、捜査機関が「共謀の事実」を立証するために、市民間の電話、電子メール、SNS等を広汎に監視して、国民の通信の秘密を含むプライバシーを著しく侵害するおそれがあり、さらなる人権侵害行為が行われることが予測される」

 警察権力には、ニュースの取材元ということや、様々なしがらみから、マスメディアははっきりとは報じないが、今でも警察は、ことに警備公安は非合法な通信傍受、室内盗聴、盗撮、GPS追跡、不法侵入などを日常的に行っている。一部のジャーリストが共謀罪のあまりの危険さに、表立ってそれを指摘する場面も出てきたが、未だタテマエ社会の様相を呈しているのがこの分野である。ほとんど「闇」だと言ってもいい。
 「共謀罪」法は、「計画段階」を処罰する故に、そういう捜査機関に個人のプライバシーに関し捜査の白紙委任状を与えたに等しい。逮捕されなければいい、というような話ではなくなっている。その捜査自体が、これこそ犯罪、といえるものだ。

 277の対象犯罪というのは日本の全犯罪件数中の80%にあたる。そして、その対象犯罪には「テロ」と名のつくものは一つもない。そもそも、成立した「共謀罪」法には「テロリズム」の定義すらない(2013年に強行採決された『特定秘密保護法』には、少なくともテロリズムの定義だけはあった)。
 ニューヨーク・タイムズ紙は「無許可の自転車レース」も対象と書いていた。何のことかと思ったら、「【自転車競技法】無資格自転車競走等」という対象犯罪があった。ちなみに、「【モーターボート競走法】無資格モーターボート競走等」というのもある。これは仏紙ルモンドがあげていた。「すでに犯罪は2002年以降減少し、世界で最も安全な国の中で」と書き、共謀罪の対象犯罪は「その多くは知的財産権侵害や許可なしの競艇参加とか国有林での植物伐採のようなテロリズムとの関係が見出し難いものである」と書いている。
 また英エコノミスト誌は「架空のテロリスト」と書き、「テロから国民を守るためと政府は主張するが、犯罪件数が史上最少まで減少し、最後のテロ攻撃は20年以上前まで遡るという日本で、これを真に受ける人は少ない」とも記している。

 TOC条約の起草者の一人で同条約の立法ガイドの執筆者でもある米ノースイースタン大学のニコス・パッサス教授は、衆議院で「共謀罪」法が強行採決される前の5月16日の『報道ステーション』のインタビューで、「TOC条約はテロ対策ですか?」との問いに「ノー」と答えた。また、「日本は国連の主要なテロ対策条約の13本についても既に批准し法整備も完了してる」として、次のように語った。
「東京オリンピックのようなイベントの開催を脅かすようなテロ等の犯罪に対して、(日本は)現在の法体系で対応できないものは見当たりません」

【参考】


IWJ:権力者の「共謀」も大企業の「共謀」も処罰対象外!? 相続税法も対象外で透けて見える「富裕層優遇」!「監視対象」は下々の者だけ!? 岩上安身が京都大学教授・高山佳奈子氏にインタビュー 2017.4.30

※井田教授は国会の参考人意見陳述で、今度の共謀罪法案の「組織的犯罪集団」の定義は絞りこまれた限定的なものだ、と述べたが、高山教授が指摘しているように、このドイツ刑法が専門の井田教授の言説は、その念頭にドイツ刑法129条があるようで、日本の今度の法案の実際の条文にはそっていない。条文では「組織的犯罪集団」の定義に限定はない。
 井田教授はこうも言明。
「問題は、誤って犯人でない人が捜査の対象になるおそれがあるかどうかだが、誤った人を捜査の対象にしてしまう恐れというのはすべての刑罰法規につきものであり、対応していかなければいけない。今回の法案がとりわけその危険が高いということはないと思っている」
 百歩譲ってそうだとしても、最大のポイントが抜けている。共謀罪はこれまでの刑法と違い「内心を見る」。井田教授はそれもよしとしているが、既遂や未遂など、物証などの物理的なものが残るものですら冤罪が少なくない現状で、一体どうやって「内心」を処罰するものに対し冤罪を防ぎ得るのか。また、一体どんな捜査をすれば、実証が可能なのか。